
フィルムで撮る人の多くは、初めて現像したネガをタンクから引き出し、光にかざして、本物のコマが写っているのを見たときのことを覚えています。自分が撮った画、自分で混ぜた薬品、自分の手で最後までやり遂げたプロセス。ラボにフィルムを預けるのとは、感じ方が違います。自分で作り上げたものだと感じられます。
難しい技術ではありません。最初の1本は、ほとんどが待ち時間で、午後いっぱいかかります。3本目か4本目には、一連の作業がリズムよく進むようになります。薬品代は1本あたり1ユーロ未満です。ネガの仕上がりは、自分で決められます。そして、フィルム撮影でいちばん好きな部分になる人も大勢います。
このフィルム現像ガイドでは、始めるのに適したモノクロを取り上げます。必要なキットと薬品から、現像時間の調べ方、工程の全体、ネガの仕上がりがおかしいときの対処までを説明します。先に動画で見たい方は、動画へ進んでください。
最初にモノクロフィルムを選ぶ理由
モノクロは、ちょっとした失敗に寛容です。現像液は室温と同じ20°Cで使うので、湯煎を維持する必要はなく、1度前後ずれてもコントラストが少し変わる程度です。カラーは38°Cで行い、1度ずれるとその差が出ます。取り扱いをモノクロで身につければ、カラーは、温度計の重要度が増すだけで、同じ手順になります。
薬品は3本で、現像液、定着液、水滴防止剤です。停止液は、必要に応じて加える4本目です。Rodinalは1本で、濃いほうの希釈なら約40本、薄いほうの希釈なら80本以上を現像できます。定着液は数十本分、繰り返し使えます。タンクが手元にあれば、1本あたりの薬品代は1ユーロ未満です。ラボで現像のみを頼むと、7〜12ユーロかかります。
モノクロフィルムを現像するのに必要なもの
モノクロ用スターターキットには、このリストにあるものがすべて入っています(停止液を除く)。同じ内容を、パーツから自分でそろえることもできます。
- 現像タンクとリール。フィルムを入れてフタを閉めたあとは、残りの作業はすべて明るい場所で行えます。Patersonのリールは、35mmにも120(ブローニー)にも合わせて調整できます。
- ダークバッグ。リールにフィルムを巻く2分間、完全な暗闇をつくれます。どの部屋でも使えます。
- 温度計。注ぐ前に、現像液が20°Cになっているか確認するために使います。
- メスシリンダー。使用液用に600mlのもの、原液用に45mlのものを使います。少量のRodinalは、大きな計量カップでは量りにくいためです。
- 保存ボトル。作業と作業のあいだ、定着液を入れておくためのものです。現像液は毎回新しく混ぜて、使ったら捨てます。
- フィルムクリップは乾燥用です。1つは重りつきのものです。
- 薬品。現像液、定着液、水滴防止剤です。どれを選ぶかは、下で説明します。すべてモノクロ薬品のコレクションにあります。

あると便利なもの
- はさみは35mmフィルムの先端(リーダー)を切りそろえるために、パトローネオープナーはパトローネを開けるために使います。栓抜きでも代用できます。どちらもフィルムと一緒にダークバッグに入れます。
- 停止液。モノクロの現像は真水でも十分に止められるため、キットには入っていません。IlfostopやAdostopを使えば、瞬時に現像を止められます。1本で何本ものフィルムに繰り返し使え、寿命が来ると色が変わります。
- タイマー。スマートフォンで足ります。AGO Film Processorを使う場合は不要です。各工程の時間をAGOが計ります。
- 蒸留水は、水道水でグラスに水ジミが残る場合の最終リンスに使います。フィルムにも同じように跡が残ります。
- ネガスリーブは、仕上がったネガを保管するために使います。
モノクロフィルム用の現像液の選び方
カラーと違い、モノクロには標準となる現像液が1つに決まっていません。次の4つのどれを最初の1本にしても問題なく、撮ったフィルムはどれでも現像できます。
- Rodinal(Adonalの名前でも販売されています)。定番です。ボトルで何年ももち、数秒で混ざり、ほとんどのフィルムに使えます。シャープで、粒状感がはっきり出ます。この粒状感を求めてモノクロで撮る人も多くいます。
- Ilford ID-11は、Kodak D-76と同じ処方です。粉末を混ぜて、1リットルのストック液をつくります。Rodinalより粒状が細かく、階調もなめらかです。公開されている現像時間の多くは、この現像液を基準にしています。
- Ilford Ilfosol 3。粒状の細かい、液体のオールラウンダーです。ここまでの3つのなかでは、量るのも混ぜるのもいちばん簡単です。
- Ilford Ilfotec DD-X。増感向きの現像液です。増感とは、箱に書かれたISOより高い感度でフィルムを撮ることです。ISOを間違えて撮ってしまったフィルムを、救う方法はこちらです。
最初の1本から身につけたい習慣が2つあります。現像液は使い切りです。使用液を混ぜ、タンク1つ分を現像したら、捨てます。こうすることで、結果を再現できます。定着液は繰り返し使います。Ilford Rapid FixerまたはAdofixを1リットル分混ぜ、1本ごとにボトルに戻して、ラベルに本数を記録します。Ilfordは、使用液1リットルの処理本数を24本としています。水滴防止剤は最後のすすぎに数滴使うだけで、1本のボトルが1年もちます。
現像時間の調べ方
たとえば、Ilford HP5 Plus(ISO 400)をRodinalで現像する場合、35mmで20°Cなら、1+25で6分、1+50で11分です。ダークバッグを開ける前に、時間を書き留めておきます。現像液が20°Cから1〜2度ずれているときは、チャートの温度換算機能を使えます。AGOを使う場合は、その補正をAGOが行います。
混ぜる量
Patersonタンクで35mmフィルム1本を現像するには、使用液が290ml必要です。120フィルム1本なら500ml、同じタンクで35mmフィルム2本なら590mlです。1+25は、全体26のうち原液が1ということなので、290 ÷ 26 = Rodinal 11.2mlに、20°Cの水を足して290mlにします。1+50なら、290 ÷ 51 = 5.7mlです。45mlのメスシリンダーは、このための道具です。
AGOを使う場合
AGOのモノクロ用プログラムには、オンにできる回転攪拌用の時間短縮機能があります。連続した回転攪拌は倒立攪拌より現像が早く進むため、この機能をオンにすると、プログラムがチャートの時間から15%を差し引きます。チャートの時間はそのまま入力し、計算は機械に任せます。この短縮を使うのは、横置き回転攪拌モード(初期設定)のときだけです。また、横置きの回転攪拌では、1本なら290mlではなく250ml、2本なら590mlではなく350mlで足ります。

まず一度、動画で見る
スターターキットを使った、最初から最後までの全工程です。先に見ておくと、文章の手順がずっとわかりやすくなります。
モノクロフィルムの現像手順
始める前に、全体の流れを一度通して読んでください。迷っている余裕のない工程がいくつかあります。下の順序が、うまくいく順序です。フィルムをダークバッグに入れる前に、薬品を混ぜて確認しておきます。
薬品を混ぜ、現像時間を確認する
選んだ希釈で、タンクに必要な量の現像液を、20°Cの水で混ぜます。定着液は、新しく混ぜるか、ボトルから出して用意します。停止液もあれば用意します。温度計で現像液の温度を確認し、ずれているときは、そのまましばらくおきます。室温の水なら、落ち着くまでの時間はたいてい数分で済みます。そのため、この作業を最初に行います。タンク、リール、はさみ、オープナーを並べ、タイマーをチャートの時間に設定します。
5〜10分暗闇でフィルムを巻く
ダークバッグの中で、パトローネを開け、フィルムの先端(リーダー)をまっすぐに切りそろえて、リールに送り込みます。Patersonのリールはラチェット式です。リールの両側をつかんで、互いに前後にひねるように動かすと、フィルムが入っていきます。動きはなめらかなはずです。引っかかるときは、少し戻してやり直します。巻き終えたリールをタンクに入れ、ロートとフタを取り付けたら、ここからの工程はすべて明るい部屋で行えます。
120フィルムは、裏紙からフィルムを巻きほどき、端のテープをはがしてから、同じようにリールに巻きます。裏紙は入れません。
この工程について。初心者がつまずくのは、リールへの巻き込みです。現像済みの古いフィルムで、まず明るい場所で目を開けて、次に目を閉じて練習します。ダークバッグの中でやるころには、手が慣れているはずです。
約5分
現像する
この工程にはリズムがあります。その通りに行い、どのフィルムでも同じリズムを使います。
- 注いでスタート。ロートから現像液を注ぎ、注ぎ終わると同時にタイマーをスタートします。
- 最初の30秒。タンクを完全に上下逆さにして戻す動作を、止めずに繰り返します。そのあと、タンクの底をカウンターに軽く打ちつけて、フィルムについた気泡を落とします。
- その後は30秒ごと。4回倒立攪拌して、休みます。タイマーが終わるまで繰り返します。
- 終了の10秒前。液を捨て始めます。タンクが空になるまで約10秒かかります。
AGOを使う場合。AGOをタンクに取り付け、現像液を注いで、スタートします。タンク内のリールをAGOが連続して攪拌し、工程の時間を計り、液中に入れたセンサーで薬品の温度を測ります。AGOに加温機能はありませんが、20°Cなら必要ありません。現像液の温度が18〜24°Cの範囲で変わっても、残りの時間を調整して補います。
標準で6〜11分
現像を止める
現像は、乳剤に染み込んだ現像液がなくなるまで進み続けます。水で止める場合は、約20°Cの水をタンクに満たし、5回倒立攪拌して捨て、もう一度同じことを行います。停止液で止める場合は、停止液を注ぎ、30秒間倒立攪拌して、次回のためにボトルに戻します。
1分定着する
定着液を注ぎ、最初の30秒は倒立攪拌を続け、そのあとは1分ごとに4回倒立攪拌します。ラピッド定着液は、使用時の希釈で2〜5分かかるので、ボトルの表示を確認してください。お使いの定着液の時間を手早く知る方法があります。カップに入れた定着液にフィルムの先端の切れ端を落とし、透明になるまでの時間を測ります。その2倍の時間、定着します。透明になるまでの時間が新品のときの2倍かかるようになったら、その定着液は寿命です。定着が終わったら、ボトルに戻し、本数の記録に1本加えます。
2〜5分水洗する
フィルムに定着液が残っていると、何年かのうちに茶色く変色します。そのため、しっかり水洗します。Ilfordの方法では、現像液とほぼ同じ温度の水を、タンク3杯分使います。水を満たして5回倒立攪拌して捨て、満たして10回倒立攪拌して捨て、満たして20回倒立攪拌して捨てます。使う水は1リットル未満で、所要時間は5分です。水道水を流しながら5〜10分水洗する方法でも構いません。
5分水滴防止剤
最後にもう一度、タンクに水を満たします。水道水の硬度が高い場合は、蒸留水を使います。水滴防止剤を数滴加え、リールをその中に1分間浸します。水の表面張力が弱まるので、水は点々と残って乾くことなく、流れ落ちます。使い終わったら捨てます。
1分乾かし、切り分け、スリーブに入れる
リールからフィルムを外し、ほこりのない場所で、上端を1つのクリップで吊るします。下端に重りつきのクリップを付けて、そのままにしておきます。拭かないでください。濡れたフィルムは傷が永久に残るので、1〜2時間は触らずに待ちます。そのあと、35mmなら6コマ、120なら3コマのストリップに切り分け、ネガスリーブに入れて、シートを平らにしてバインダーに保管します。この方法で保管すれば、モノクロネガは数十年もちます。自宅でスキャンするか、暗室に持ち込んでプリントします。スキャン用品のコレクションには、スマートフォンから専用のフィルムスキャナーまでの選択肢があります。
1〜2時間

手作業か、AGOか
学ぶには、手作業が適しています。タンクとタイマー、上で説明した倒立攪拌のリズムがあれば、最初の1本から良いネガが得られます。モノクロは失敗に寛容なので、取り扱いに集中できます。ほぼ毎週現像するようになると面倒になる部分を、AGO Film Processorが引き受けます。タンク内のリールをAGOが攪拌し、各工程の時間を計り、液温の変化を現像時間で補正し、2本以上なら薬品の量を約40%減らせます。同じ機械で、カラーネガ、リバーサルフィルム、カラープリントも処理できます。これらは温度が結果を大きく左右するプロセスで、AGOは液温を測って時間を補正します。自宅でフィルムを現像する最適な方法では、フィルムの種類と現像する本数の面から、2つの方法を比べています。
AGO Film Processorを見るモノクロネガのトラブル対処
乾いたフィルムを窓にかざして見ます。良いモノクロネガは、縁が透明でフィルム名とコマ番号が印字されており、空やハイライトの部分が暗く、シャドウにもディテールが見えます。
| 見た目 | 考えられる原因 | 対処 |
|---|---|---|
| 透明なフィルム、縁の印字あり | フィルムが露光されていません。原因はカメラか装填で、薬品ではありません | カメラを確認します。薬品は問題なく働いています |
| 透明なフィルム、縁の印字もまったくなし | 現像液より先に定着液を入れた、または現像液が劣化していた | ボトルにラベルを貼ります。新しい現像液は、まずフィルムの切れ端で試します |
| 薄く、コントラストの低いネガ | 現像液の温度が低い、現像時間が短い、または希釈が薄い | 温度計とチャートの行を確認します |
| 濃く、階調が潰れたネガ | 現像液の温度が高い、または現像時間が長い | 温度計を氷水に入れて確認します。0°Cを示すはずです |
| フィルムに沿った筋 | 攪拌のムラ、またはフタからの液漏れ | 毎回同じリズムで行い、気泡を落とすために軽く叩き、密閉を確認します |
| 白濁、または紫がかったもや | 定着時間が足りない、または定着液が寿命 | 新しい定着液に戻し、もう一度水洗します。完全に元に戻ります |
| 白っぽい水滴の跡や点 | 硬水、水滴防止剤なし、または濡れたまま拭いた | 蒸留水に水滴防止剤を入れ、吊るして触らずにおきます |
| 三日月形の跡、または1か所だけ何も写っていない部分 | フィルムが折れ曲がった、またはリール上でフィルム同士が触れた | 明るい場所で巻く練習をします。送り込み、無理に押し込みません |
安定した結果を出すコツ
- 毎回、同じリズム、同じ希釈、同じ温度で行います。違う仕上がりを試すときは、一度に変えるのは1つだけにします。
- すべてのボトルにラベルを貼り、中身と混ぜた日付を書きます。定着液には、処理した本数の記録も書きます。
- 新しく混ぜた液を、フィルムの切れ端で試します。現像液では1分以内に黒くなり、定着液では2分以内に透明になるはずです。
- 保存ボトルの空気を抜くか、つぶして小さくできるボトルを使います。現像液のストックをだめにするのは空気です。
- 手袋をし、換気をして、定着液はシンクに流しません。定着液には銀が溶け込んでいます。回収施設で受け付けているかどうかは、お住まいの自治体にご確認ください。
次は、自宅でのカラーフィルム現像
モノクロのフィルムを自分のタンクから取り出せたら、カラーも同じタンク、同じリール、同じ倒立攪拌です。新しく求められるのは、38°Cを数分間維持することだけです。
- 自宅でカラーフィルムを現像する方法。C-41のガイドで、取り扱いキットとキットごとの工程時間を紹介しています。
- タンクにするか機械にするか迷っていますか?自宅でフィルムを現像する最適な方法をご覧ください。
- ISOを間違えて撮ってしまいましたか?増感で対処できます。
- 仕上がりがおかしいネガで困っていますか?DiscordとFacebookグループでは、自宅で現像する人たちがネガを見せ合っています。
自宅でのフィルム現像に関する質問
自宅でモノクロフィルムを現像するのに暗室は必要ですか?
いいえ。暗闇が必要なのは、フィルムをリールに巻いてタンクを閉じる数分間だけで、ダークバッグがあればどの部屋でもできます。薬品を使う工程はすべて、普通の明るさの中で行えます。
どのくらい時間がかかりますか?
手を動かす時間は約30〜40分で、内訳は、混合と巻き込みが10分、フィルムと現像液に応じた薬品の工程が20〜30分です。そのあと、見ていなくてよい乾燥の時間が1〜2時間あります。
停止液は必要ですか?
モノクロでは必須ではありません。真水を2回入れ替えれば、安定した結果が得られる程度に現像を止められます。そのため、スターターキットには入っていません。専用の停止液なら現像を瞬時に止められ、定着液も守れます。1本で何本ものフィルムに使えます。
自宅ではどのモノクロフィルムを現像できますか?
一般的なモノクロフィルムなら、どれでも現像できます。Ilford HP5 Plus、Delta、FP4 Plus、Kodak Tri-XとT-Max、Fomapan、Kentmereなどです。例外は、Ilford XP2 SuperやKodak T400 CNのような発色現像型(クロモジェニック)のフィルムです。これらはC-41のカラー用プロセスで現像するように作られたモノクロフィルムです。
自宅ではどのフォーマットのフィルムを現像できますか?
35mm、120、127、110、220、シートフィルムです。多くの方は35mmと120から始めます。Patersonのリールは1つで両方に合わせて調整できます。
1本あたりの費用はいくらですか?
タンクが手元にあれば、薬品代は1本あたり1ユーロ未満です。Rodinalは1本で、希釈によって40〜80本を現像でき、使用液1リットルの定着液は約24本を処理できます。スターターキットは、ラボの料金で換算すると、およそ10〜15本で元が取れます。
モノクロ現像液は再利用できますか?
ほとんどは使い切りを前提に作られています。使用液を混ぜ、タンク1つ分を現像したら、捨てます。こうすることで、結果が安定します。繰り返し使えるのは定着液です。1本ごとにボトルに戻し、本数を記録して、フィルムの切れ端が透明になるまでの時間が新品のときの2倍になったら交換します。
初心者に向いているモノクロ現像液はどれですか?
Rodinal(Adonalの名前でも販売されています)です。ボトルで何年ももち、数秒で混ざり、ほとんどのフィルムに使えます。粒状をより細かくしたい場合は、Ilford ID-11かIlfosol 3です。3つとも、当店のモノクロ薬品のコレクションにあります。